僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている

色どころか、今はひょっとすると、姿形さえあやふやに映っているのかもしれない。

そんな焦りに蝕まれていると。

「今から桜を見に行かない?」

天宮くんが、唐突にそんなことを言いだした。

「え? でも外出許可は?」

「あさってとってるから、申請しても下りないと思う。ちょっと行って戻るだけだから、大丈夫だよ」
 いや、大丈夫じゃないだろう。

そう思うんだけど、うきうきとした雰囲気の天宮くんを見ていたら何も言えなくなる。

ちなみにあさっては、私のスピーチコンテストの日だ。天宮くんは見に行くつもりで、外出許可をとってくれたらしい。

「土手まではすぐで、病院の敷地を散歩するのと変わらない距離なんだ」

霞病の治療のために、おそらく子供の頃からこの病院に通っている天宮くんは、土手まで何度か河津桜を見に行ったことがあるのかもしれない。

妙に自信満々だった。