僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている

いつの間にか三月に入り、半ばも過ぎていたとある祝日。

学校が休みなので朝から病室に行くと、天宮くんはベッドに座って、呆然と窓の外を眺めていた。

このところ、天宮くんはぼうっとしていることが多くなったように思う。

視力低下が、再び進行しているのかもしれない。

手探りで物を判別していたり、茶色の瞳に濁りを感じたり。

そばで見ていて、そんな不安にたびたび蝕まれることがあった。

ひらり、とわずかに開いた窓から花びらが舞い込んできた。

小さな薄桃色の花びら――桜の花びらだ。

「桜、もう咲いてるのかな」

驚きながら、リノリウムの床に落ちた花びらを拾い上げる。

今はまだ、終業式すら迎えていない三月の半ばすぎ。

桜の開花時期はだいたい入学式の頃だから、少し早いように思う。

「ソメイヨシノよりも少し開花時期が早い、河津桜(かわづざくら)だよ。この近くの土手に河津桜がたくさん生えてるんだ」

天宮くんが、私の指先にある桜の花びらに虚ろな視線を移した。

色の見えない彼には、この桜の花びらはどんなふうに見えるのだろう?