僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている

学校を出て向かったのは、いつもの裏門ではなく正門だった。

最寄りの駅から電車に乗って、H大附属病院に行くためだ。

受付があるホールを過ぎ、案内板を頼りに入院病棟を目指す。

大病院のためかなりの病床数があるから、一部屋ずつ見ていくのは至難の業だった。

受付で聞いてみようかな、と思い悩みながら適当な階で降りたとき、私と入れ違いにエレベーターに見覚えのある女の人が乗ってくる。

四十代くらいの、長い髪をうしろで束ねた、上品そうな女の人。

エレベータはすでに閉まり、下がり始めている。

――天宮くんのお母さん?

夏に駅でたまたま会った天宮くんのお母さんに、よく似ていた。

もしも本当に天宮くんのお母さんだったら、このフロアに天宮くんがいるかもしれない。

気持ちが急いてすぐ、エレベーターのすぐ近くにある個室のネームプレートが目に入る。

〝天宮陽大〟

ようやく見つかったという安堵と、本当に入院してたんだという衝撃。

ふたつの思いが、複雑に交錯した。

ひと息ついてから、病室のドアをノックする。

やや間があって、「はい」という声が中から返ってきた。