僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている

エスカレーターに乗っている間も、心ここにあらずの状態だった。

不登校になるきっかけとなった中学時代の思い出は、深い傷として心に刻まれていて、山西くんに再会したとたん、あっという間にまたぱっくりと開いてしまった。

人間はどうして、楽しかったことよりつらかったことを、しっかりと覚えているのだろう?

そしていつまでも忘れられずにいるのだろう。

誰かにとっては、些細な、取るに足らない発言だったのかもしれない。

すぐに忘れてしまうような、どうでもいい行動だったのかもしれない。

それでも、傷ついた側は永遠に覚えている。

そして、ふとしたことをきっかけにまたうずきだすのだ。

一階に降り、大勢の人が行き交う大通りに出たところで、ようやく天宮くんが立ち止まった。

「ごめん。今まで、同じ中学だったことを黙ってて。小学校も……」

悲痛ともとれる声。

やっぱり、天宮くんは黒瀬くんだったんだ。