「藤乃さんのこと、ずっと好きだからだよ。誰にでも優しくていつも笑顔で周りを癒してくれる。俺はずっとアピールしてたけど、藤乃さんは気付いてないみたいだけどね。」

「ご、ごめんね……?」

 自分でも、どうして謝っているんだろうと疑問に思う。

 市ヶ谷君が言っている私は、本当の私じゃない。

 私は優しくないし、笑顔でもないし周りを癒す効果もない。

 周りからはそう見えてるのかな……って思ったけど、不意に庵先輩の言葉を思い出した。

『菜花は誰よりも優しいけど、お人好しでちょっと抜けてて意外と泣き虫で。そんな菜花の全部が、愛おしい。』

 私の短所も知ってくれている先輩のことが頭の中に浮かんで、市ヶ谷君から視線を逸らす。

 これ以上市ヶ谷君の話を聞いてたら、先輩のこと考えちゃいそうだ。

 やっと割り切れた……そう思い込んでいるのに、泣きたくなる。

 もう、帰ろう。

「市ヶ谷君、じゃあねっ……。」

 市ヶ谷君にだけ聞こえるような小さな声で、駆け足で教室を飛び出す。

 先輩のことや市ヶ谷君の告白の事を考えないよう、まっすぐ家に帰る。