江東とケンカをしてしまった日の前日は、久しぶりに父さんが家に帰って来た。
前回はいつ帰ってきたか思い出せないほど長らく家を空けていた。




昔は父さんが好きだった。

週末は色んな場所へ遊びに連れて行ってくれたし、肩車をしてくれたり、キャッチボールもしてくれた。
身体を張った遊びを教えてくれたのはいつも父さん。

俺には兄妹がいない分、同性の父さんが一番の理解者だった。



修学旅行から戻ってからの翌々日。
確か、あの日は日曜日。


自宅に戻って来た父さんに笑顔はない。
玄関で俺の頭をポンと優しく叩くと、険しい顔つきで母さんの方へと向かった。

父さんの表情を見た瞬間、母さんと話し合う為だけに帰って来たんだ…と。



……いや。
正しくはケンカ。



俺は二人の怒鳴り散らす声が聞こえないように、両手で耳を塞いで部屋に閉じこもって身体を小さく丸めた。

大人には大人の事情があるかもしれないけど、両親の言い争っている姿を目にしても悲しい涙しか生まれない。



父さんは、荷物を持って不機嫌な足取りで出ていき…。
いつも勝気な母さんは、父さんを引き止める事なく手で顔を押さえて台所で静かに泣いていた。



ただですら家庭事情で胸を痛めてるのに、翌日の学校では修学旅行時の告白話がクラスメイトに知れ渡っていて、男子(やつら)にしつこく冷やかされた。

ミクは真剣な気持ちを伝えてくれたから、断る側の俺だって結構辛かったのに……。




俺は辛い事が重なってストレスが溜まっていた。

少し気分転換になるかと思って神社を訪れると…。
そこには、クラスで二人の噂が広がってしまった日以来、会話を交わさなかった江東が久しぶりに神社に姿を現した。