『愛されたい』
『心の底から愛せる人と一緒になりたい』
咲はこの短い間に想像以上の逞しさを見せてくれた。
もしかしたら強がってる部分があるかもしれないけど、真の幸せを掴み取る為に辛い過去を乗り越えようとしている。
うじうじ悩んでいる私とは対照的だ。
でも、『心の底から愛せる人と一緒になりたい』という咲の願いは、後ろ向きな心を大きく揺さぶった。
私は壊れる事を恐れるばかりで幸せな未来を思い描く事が出来なくなっていた。
そうなってしまった最大の原因は、大切な人との別れというトラウマ。
それは留学予定の理玖との交際を断れなかった理由の一つ。
でも、咲の心境と同時に見えてきたものもあった。
それは、つい先日足を運んだ神社のおじいさんの言葉。
『人生に難は付き物なんじゃ。いい事も悪い事も常に抱き合わせなんじゃよ。今のままで愛里紗ちゃんは幸せかい?未来に目を逸らし続けても、幸せは一人でやって来ない』
『愛里紗ちゃんにとって、いま一番何を優先すべきかをじっくり考えてみなさい。そうすれば自然と答えが導き出されてくるはずじゃ』
あの時、おじいさんは弱気になっていた私の背中を押してくれた。
私は本当に今のままでいいのだろうか。
咲は過去の自分を捨てて生まれ変わろうと努力をしているのに、私は変わる事を恐れている。
翔くんとの関係に終止符を打ったけど、恋心を引きずったまま理玖との幸せを掴み取る事が出来るのだろうか。