愛里紗が胸の苦しみと戦っていると、突然強くて冷たい北風が向かい風として鳥居前に佇む二人を追い出すように襲いかかった。
まるで、神社から二人を遠去けるかのように……。
北風を浴びた瞬間、愛里紗の眉がピクッと動く。
足を踏み入れてはいけないような気がすると、理玖の手をギュッと引き寄せた。
「この神社はっ……ダメッ………」
愛里紗の大きな声は境内を包み込んでしまうほど。
それと同時に、握りしめている手の圧が自然と加わわっていく。
異様な空気に包まれると二人の間に沈黙が生まれた。
理玖は軽く参拝するつもりだったが、愛里紗の急変に圧倒させられてしまう。
「あっ……うん。ゴメンな」
理玖は思わず謝った。
愛里紗はハッと我に返ると、反省しながらも首を横に振る。
「……ううん、今度別の神社に行こうね。ごめんね」
「いーよ。俺はお前と一緒ならどこでも行くよ」
一瞬不穏な空気に包まれてしまったが、お互いが一歩ずつ引きを見せると、普段の調子を取り戻していった。
思い出の神社を久しぶりに目にした瞬間、不覚にも取り乱してしまった。
どうして胸が押し潰されそうだったのかな。
谷崎くんが街を去ってからだいぶ経つのに。
今はそれぞれお互い新しい人生を歩んでいるのに。
ひょっとしたら、理玖と二人で足を踏み入れてはいけない聖域だったのかもしれない。