ボールを取りに来た女子と咲は、倒れている愛里紗の安否を確認する為に上から顔を覗き込んだ。



「あたたっ…。う、うん。大丈夫…」



目を開けると二つの顔が心配している。

ボールが当たった直後は一瞬意識を失いかけたけど、何とか無事だった。
頭を抑えてゆっくりと起き上がる。



「保健室に行かないと」

「そこまでじゃないから、大丈夫」

「一人で立てる?」


「うん、平気だよ」

「頭痛い?」


「ちょっとズキズキする」



今日は何て日なの。
はぁ…。







その後も咲はずっと心配してくれていて、楽しみにしていた彼とのデートをキャンセルして私を家まで送ってくれた。



「今日のデートをあれだけ楽しみにしていたのに……、ごめん」

「愛里紗の事も大好きだって言ったでしょ。忘れちゃったの?」


「彼、怒ってないかな?」

「うん、大丈夫。気にしないで」



咲は優しい。

自分の事を二の次にして私の身を案じてくれる。
電車に乗ってる最中も『大丈夫?』とか『まだ痛む?』とか、心配の言葉を何度も届けてくれた。

朝からデートを楽しみにしていた事を知っている分、余計申し訳なく思っている。



だから、咲の悪い噂を立てている一組の子の気が知れない。