ーー今日から十月。


朝、教室に一歩足を踏み入れると…。
昨日まで真っ白のシャツ色に染まっていた教室内は、今日から紺のブレザー色に様変わり。
暗く染まった教室内は一気に季節感が増していた。

窓の向こうの景色は、衣替えと共に秋が深まっている。



着慣れないブレザーが窮屈に感じなくなり始めた、三時間目が始まる直前。
隣のクラスの木村が、バタバタと足音を立てながら私達の教室に入って来た。



「駒井。悪いけど、英語の教科書貸してくんない?今日忘れちゃって」



咲に好意を寄せている木村が、いつものように咲と二人で話している間へと割り込む。
咲は毎度の事ながら仕方ないなと少し困らせたように眉を下げ、机から英語の教科書を取り出して木村の前に差し出す。



「…いいけど、ちゃんと返してね。五時間目に使うから」

「悪りぃな」



木村は咲から教科書を受け取ると、照れ臭そうに頭をかいて教室へと戻って行った。

咲に彼氏がいる事も知らずに必死にアピールを続ける木村は、ちょっとかわいそうだけど仕方ない。



「木村って、他に教科書借りる人いないのかなぁ」



耳を赤くして走り去る木村の後ろ姿を見ながらそう言うと、咲はニッコリと微笑む。



「私がいつもノートを貸してるから、借りやすいんじゃないかな?」



木村がしょっ中ノートや教科書を借りに来ても、咲は文句一つ言わずに貸してしまう。
でも、残念ながら木村の気持ちには全く気付いていない様子。


両方の気持ちを知ってるだけに、木村の恋は一方通行だと認識しているが、彼は彼なりに今日も一生懸命アピールを続けていた。