「ゴメン!最後に愛里紗を借りるっ………」



背後から出現した理玖は愛里紗の友達にそう言うと、愛里紗の手を取って校舎へと逆戻りして行く。
友達との別れが中途半端のままになってしまった愛里紗は、急展開にキョトンとする。



「えっ…理玖?!……ちょっ………どこへ行くの?」



背中を向けて校舎の方へ走り行く理玖は、返事はせぬまま先へ先へとダッシュで足を進ませる。



もう二度と戻る事のないと思った、中学校の下駄箱。

ズラリと並んでいる教室。
音楽室前の左側を曲がると、階段に差し掛かった。

静寂に包まれている校舎内に足音をパタパタと響き渡らせ、しっかり手をつないだまま階段を一段一段駆け上がる。



ハァハァと息を切らした二人がようやく足を止めた先は、階段を上り詰めた先の屋上扉の前の踊り場だった。



「座って」



理玖はそう言い、階段に腰を落とす。
卒業式後から時間が経っているので、勿論人影はない。



「あ、うん……」



愛里紗は急展開に気持ちがついていけなかったが、言われた通りその場に腰を下ろした。

でも、卒業式の今日ですら二人きりという状況に慣れていない。



過剰に意識してしまっているせいか、口に重石が乗っかったように言葉が出ない。
階段の冷たい感触が身体を徐々に冷やしていく。


肩を並べても微妙な空気。
友達と一緒にいる時は楽しく話せるのに、二人きりになると気まずさを感じてしまうのは何故だろう。