「新作うまかったね!オレ次はグランデにしよ」

「あははっ、そんなに気に入ったの?」


他愛もない話をしながら帰路についた。

電車を降りて、家まで約15分の道のりをだらだら歩いて。

自宅まであと数百メートルというところまで来たときに──事件は起きた。



ううん、事件というにはまだ早い。


角を曲がった瞬間に、うちの玄関の前に人が立ってるのが見えたというだけ。

他人とは違う圧倒的なオーラで、遠目から見てもそれが天沢 雪くんだとわかっただけ。


──それだけのことなのに


「? 杏実ちゃんどうしたの固まって」


背中がすうっと冷えた。
ぞくぞくと這い上がる寒気。
春なのにおかしい。

動悸が激しくなって前にも後ろにも進めない。