沢渡(さわたり)先生は気づいていないのかもしれないけれど、先生の声は柔らかくて、穏やかで、心地良い。



だから今。

県立A高校の一年七組の教室では、現代国語の授業中にも関わらず、居眠りしている生徒が続出している。



……私、黒崎 春香(くろさき はるか)だって、必死に眠気を追い払っている。



沢渡先生はそれには気づかず、音読しては説明し、黒板に要点を書いている。



……沢渡先生。

入学して間もない頃、初めての現国の授業で、先生はこう言った。



『先生も、先生一年生です。頼りないこともあるだろうけれど、みんなと一緒に楽しい授業が出来るように一生懸命に頑張ります』



みんな、ほんの少しの不安と安心が、入り混じった顔をしていた。

私もこの人、大丈夫なのかな?とはじめは思ったけれど、すぐに素直で優しい先生だってわかった。

……確かに沢渡先生は『先生一年生』なだけあって不慣れで、頼りないこともあるけれど。



でも良い大人だ。

だって優しくて、一生懸命だもん。