理由は教えてくれなかった。

お願いとして受け取ったチョコレートは結局食べられないまま、ひっそりと私の部屋の引き出しに仕舞われることになった。

モヤモヤすることがたくさんあるのに今日は文化祭、みんなで準備してきた本番の日だ。

「詩乃、チョコ研はいいの?」

「うん、私の当番は午後からだから」

午前中はちょっとだけクラスの仕事、映え写真館の手持ち看板を持ってお客さんを呼ぶ係。
クラスの模擬店は基本そのクラスでするのが決まりで、廊下に出て呼び込みをしていた。

「咲希は午前中ずっとクラス係やってるんだよね?」

「うん、私帰宅部だしね」

「午後は?光介くんと回るの?」

「そのつもりだよ、光介も部活の係もあって忙しいみたいだけど」

そんな風に言いながら笑ってる咲希は嬉しそうで、最近はいい感じなのかなって思った。

「私午後はチョコ研の方にいるから遊びに来てよ!」

「行くよ、魔法のチョコレート買いに♡」

「魔法のチョコレートは午前中で売り切れだろうけどね」

「えー、そうなの?」

今頃多目的ホールのチョコ研の模擬店は長蛇の列かな。

私のクラスから多目的ホールは遠いんだ…
近かったらこそっと抜け出して買いに行けたのに。

今頃多目的ホールで小鳩と森中部長は忙しくしてるんだろうなー

森中部長に、…もう話したのかな。

チョコレート止めてどうするんだろ、小鳩からチョコレート取ったら何も残らなくない?大丈夫、なのかな…?

「すみませーん、映え写真館今入れますかー?」

「あ、どうぞどうぞ!こちらからお願いします!」

考えたいのに考える暇もなく、文化祭は繁盛していた。

ただの客寄せ係の私でさえバタバタしていた。

だからこのあと緊張する出来事のことをちょっとだけ忘れてたの。

部活の係もある私はクラスの係半分の時間で、休憩をもらえる。

この休憩時間だけが私が自由に文化祭を回れる時間…


オージ先輩と一緒に回ることを約束した時間。