「文化祭…、森中先輩と回りたいんだけど」

森中部長、って名前を言うだけでも緊張するのか手に持っていたハケを置いて両手で顔を隠した。

「そらぴょん…、そらぴょんには誘うって行為はハードルが高すぎると思う」

「わかってるよ!全然喋れないし、顔見れないし、でも近付くといい匂いするんだもん!」

「…ちょっと気持ち悪いんだけど」

「男なんてそんなもんだよ!」

まぁ、言いたいことはわからなくもないんだけどね。
私だってそうだったし、だから魔法のチョコレートに頼ろうと思ったんだから。

止まっていた手を動かし始める、今日中に絶対終わらせなきゃいけないし。

「メリーは?」

「え?」

「誘わないの?その…好きな人」

好きな人。

また手が止まった。

「あ…、誘われたんだよね」

「え!?マジ!?オージ先輩から!?」

「うん、昨日LINE来て…」

オージ先輩の方から誘ってくれるなんて思わなかった。

ちょっと前の私からしたら夢の夢のまた夢で、話すことだってなかったのに…


一緒に文化祭回らない?


なんて言われる日が来るなんて。

「えー、超いいじゃん!よかったね、メリー!もう絶対イケるよ!!」

「うん、ありがと」

だから、ビックリしたのかな。

すぐに返事が返せなかった。

「メリー…?全然嬉しそうじゃなくない?」

「え、そんなことないよ嬉しいよ!すっごい嬉しい!」


だって好きな人に誘われたんだから。

私の好きな人はオージ先輩なんだから。

嬉しいに決まってる。


…でもどうしてか、小鳩の笑った顔が頭から離れなくて。

森中部長の前で見せたあの顔がどうしてもー…

「あ、もしかしてメリー緊張してる?大丈夫だよ、メリーなら!」

瞼を閉じるたび浮かんでくる、オージ先輩の顔よりも小鳩のあの顔の方が。

「ありがとう、がんばってくるね!」

なんでかな…