「前に、僕が倒れた日の事覚えてますか?」

「え、あの…私がしつこく付きまとった申し訳なかった日、だよね?」

魔法のチョコレート欲しさに近付いて小鳩に迷惑かけた日、さすがの私も自分の恥ずかしい行動忘れるわけない。

「あれは反省してる、自分勝手過ぎて本当に申し訳なかったと…!」

「あれは柳澤さんのせいではありませんよ、もちろん笹原さんのせいでもないです」

「…え、じゃあ何?」

すべてミルクティーを飲み干してしまったのか、置いたカップを少し傾けじぃっと見たあとソーサーの上に戻した。

「あの日…、結婚するって聞いたんです」

ゆっくり小鳩が話し出す。

「自分があんなに動揺するとは思いませんでした」

決して私と目を合わそうとはしなかったけど、だけどいつも淡々と話す小鳩の声とはどこか違って小鳩の気持ちがそこにはあった。

「もう忘れたと思ってました。あんな何年も前の事、諦めたと思ってました。…でもずっと、やめられなかったんです」

琴ちゃん先生の恋が続いていたように、小鳩の中でもずっと続いてた。

誰にも知られず、気付かれず、ひたすらに想ってきたんだ。

「めんどくさいなって思ってました、自分が。そんなことで動揺して、苛立って、そんなのっ」

まるで自分を否定してるみたいで、小鳩の恋は楽しくなかったのかな。

ずっと苦しかったのかな。

「だって小学生の恋ですよ?相手は10歳も年上の幼馴染ですよ!誰も本気にするわけないじゃないですか、僕だって本気だなんて思って…っ」

声が詰まる、泣きそうな声で。

子供の頃の小鳩はずっと琴ちゃん先生を見てきた。

それがいくつになっても、ただ変わらなかっただけ。

それは何にもおかしなことじゃない。

おかしなことじゃないよ。



大切にしていいんだよ。


小鳩の恋、それでいいんだよ。


涙を流しながら、最後に呟いた。



「好きでした、琴乃のことが」



初めてハッキリ小鳩が想いを口にしたの。