「もう今週なんでしょ、結婚式!」

「…もういいですよ」

「よくないよ!」

「話は終わりました、失礼します」

「待ってよ小鳩!」

小鳩が立ち上がろうとした、だから同じように立ち上がった。

右手にはチョコレートを持ったまま。

「小鳩だって捨てられなかったんでしょ!だから私に託したんでしょ!」

グッと押し付けるように差し出した。

「それぐらい一生懸命作ったチョコレートなんでしょ!」

「…そんなの、どうでもいいですっ」

その瞬間ガラガラガラッとチョコレートが宙に舞った。

振り払われた小鳩の手に当たって、バラバラと階段に散らばった。

コロコロと落ちていくチョコレート、目で追うより先に手が動いた。


拾わなきゃ…!!!


箱ごと落としてしまったチョコレートをかき集めるようにして全部取りこぼさないように。

まだあっちにもある、あっちにも…!

グッと手を伸ばした。

「…っ!」

小鳩の手と重なった。

「……。」

びっくりして咄嗟に手を戻すと、小鳩がチョコレートを拾ってくれて箱に戻してくれた。

「…ありがとう」

「別に、柳澤さんにお礼を言われることではないです」

しゃがみ込んでチョコレートを拾う私の隣に同じようにしゃがみ込んだ。

急に緊張した空気が流れる。

やばい、今顔見られたくない。

「…なんで柳澤さんの方が悲しい顔してるんですか?」

サッと隠したつもりだったのに、小鳩には気付かれていた。

「だって…っ」

「したいのは僕の方です」

「え…」

小鳩が俯いた。

背が高くて大きい小鳩が小っちゃくなって足を抱えるように、か細い声で私に言った。

「忘れられないんです。あの時の琴乃の笑った顔は今でも忘れられません」


初めて聞く小鳩の本音。


ずっと大切にしていた小鳩の気持ち。


隙間風が冷たくて、しーんとしてる廊下。


小鳩の震える声が私に届く。


「僕の力ではなかったですから」


抱きしめたい。


今すぐ小鳩を抱きしめたい。


小学生の頃の、小さな小鳩ごとまとめて抱きしめてあげたい。


大丈夫だよ、泣かないで、俯かないで。


何を言っても薄っぺらくて、私が言える言葉なんてなかったけど。


かすかに震える小鳩の背中を、触りたくて手を伸ばした。

だけどすぐに戻しちゃった。

私の手も震えてたから。


「小鳩…」

「……。」

「やっぱりチョコレート渡そう!」

「…。」

俯いたまま、何も言ってはくれなかった。

「も1回チョコレート作ろうよ!」

散らばったチョコレートを拾って箱に戻した。

ちゃんと全部揃ってた。

「それで、気持ち伝えよう!…小鳩まだ言いたいこと言ってないよね?」

「…今更何言えばいいんですか、ないですよね」

小さな声が返って来た、顔は上げてくれなかったけど。

「あると思う!だって小鳩チョコレート作るの好きじゃん!」