「…そんな昔の話です、全然いい話じゃなかったんじゃないですか。魔法のチョコレートなんて嘘なんですよ」

冷たくなってしまったクレープを小鳩がかじった。
きっともうチョコレートは固まちゃって、おいしくないかもしれない。

私のクレープだって、もう冷たくなるどころか自分の手の熱で生クリームが溶け出しちゃってる。
まだ半分も食べてないのに食べられる気がしなかった。

顔を上げられなかった。

「小鳩、琴ちゃん先生にチョコレート渡さないの?」

「どうしてです?なんで今そんな話になるんですか?」

「だってあのチョコレート…私にもらってほしいって言ったチョコレートはっ、…本当は琴ちゃん先生に渡すつもりだったんでしょ?」

食べられなかった。

食べられるわけないよ。

小鳩が琴ちゃん先生のために作ったチョコレートなんか…

「………違いますよ」

「嘘だよ!だって調べたもん!12月25日の誕生花はヒイラギなんだってね!でもクリスマスでよく見るヒイラギはセイヨウヒイラギって言って別のものなんだって…!だから、…わざとその形にしたんだって思った」

琴ちゃん先生の誕生日のヒイラギと、クリスマスのセイヨウヒイラギ、どちらの想いも込めて。

小鳩は冷たいし、高圧的だし、すぐ睨むし怖いけど…

チョコレートに対しては誰より熱くて一生懸命だから。

精一杯の気持ちを込めたんでしょ?

そんな小鳩の琴ちゃん先生の想いでいっぱいのチョコレート…っ

「それはもういいんですよ」

「なんで!?何がいいの!?」

食べ終えたクレープの紙を丁寧に織り込んだ。こんなとこまで小鳩らしい性格で。

「…確かに渡すつもりでした。でもタイミングが合わなかっただけで、自分で捨てるぐらいなら柳澤さんにもらってもらおうと思っただけですから」

「でもっ」

あっという間に小さくなったクレープを包んでいた紙はせっかく丁寧に折りたたまれたのにその瞬間小鳩の手のひらの中でくしゃっとよじ曲がった。

「……っ」

「ただのチョコレートですよ、渡さそうが渡さまいがどっちでもいいじゃないですか」

「琴ちゃん先生に言いたいことないの!?だってこれ…っ」

リュックからあのチョコレートを取り出そうと思ったけど、手に持っていたクレープが邪魔でリュックを開けるのに戸惑ってしまった。

そんな私を前に小鳩がドンッとテーブルを叩いた。

「…ないです、何も」

鈍くて重い音。

下に打ち付けたから床にも響いた。

「じゃあ先に失礼します」

くしゃくしゃに降り曲がったクレープの紙をゴミ箱に捨て、私を置いて歩き出す。 
 
追いかけることもできなかった。