「すいません、せっかくの休日なのに…。」

「俺がそうしたいんだ。
空気が冷えてきたな。寒くないか?」
果穂は朝から薄手のカーデガンだけを羽織っているからつい、心配してしまう。

「やっぱりこっちの方が寒いですね。コート出しとこうかな。」
車まで行って、果穂は荷物ケースを開けコートを取り出す。

「お待たせしました。」と、戻って来た果穂を助手席に乗せ、新幹線の駅まで車を走らせる。
彼女と居られる時間は残り数時間…。
タイムリミットが迫ってくる様で、なんとなく気持ちが重い。

車を駐車場に停める。
「出発時間は何時?」

「えっと、5時45分発です。」
チケットを確認しながら、果穂が言う。

残り、30分ギリギリまで一緒に居ようと決める。
「出発まで一緒に居るよ。行こう。」
そう言って車を降りようとすると、果穂がパッと俺の手を掴む。

「あっ、翔さん。ここでいいですよ。
離れ難くなっちゃいますから…
あの、これお弁当なんですけど、翔さんの分も一緒に買ったので、夕飯にでも食べて下さい。」
そう言ってビニール袋を渡してくれる。

「わざわざありがとう。」

果穂のちょっとした心配りが嬉しい。

お金を使わせたくないのに、何かとお礼と称して渡してくれる。
彼女の心遣いが、彼女らしさを垣間見る事が出来て微笑ましく思う。

「本当にここまでで大丈夫です。
今日は楽しかったです。ありがとうございました。これ以上一緒に居たら別れ際が寂しくなっちゃいますから…」

そう言って、握られた手が離され車を降りようとする。

「じゃあ、改札口まで。
この時間は人が多いし迷うかも知れないから。」
そう言って、果穂よりも早く車を降りて荷物を手にする。

「行こう。」
果穂の手を握り締め改札口まで歩く。
困り顔の果穂はそれでも、大人しく着いて来てくれる。