部屋が暗くて顔が見えない。

「今晩は、貴方が翔さんの婚約者?」
そう私に問いかけるのは明らかに女性の声だった。

ガムテープで口が塞がれているから声が出せない。こくんと頷くしか出来ない。

「私に翔さんを頂戴。
あんなに完璧でステキな人はいないと思うの。肩書き、家柄、見た目もパーフェクト。
貴方みたいな一般人には勿体無いわ。」

「良く聞いて、こんな怖い経験はこれ以上したく無いでしょ?
だから、貴方は大人しく彼の前から消えて。
そうね、貴方なんて外国に売り飛ばしても何の支障も無さそうね。

それに、ご家族もたいした肩書きじゃ無いから無視してもなんの力も無さそうだし、
もし今後、翔さんに近付いたら貴方の家族なんて簡単に潰せるんだからね。」

何を言っているんだろうこの人は?と思う。
翔さんはそんな簡単に心変わりすると思ってるのだろうか?

翔さんの気持ちはそんな簡単に、
私が居なくなったからって変わるとは思わないし、これまで築いてきたうちの実家との繋がりも、簡単に切れるものじゃ無い。

彼はそんな人じゃない。

翔さんを信じてる。

この人の思い通りには決してならない。
なんて浅はかで自分勝手な考えなんだろう。

反論したいけど、ガムテープが邪魔して話せない。

とにかく、ここから脱出する事を考えなくちゃ…。