ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。





運動会で“一等賞”ではなく、“いちばん”を取ると言ったこと。

たまたまだとしても、そんな世界があるのなら信じてみたい私もいる。



「せんせい、おれといっしょにかえろ」


「ごめんね~。先生ね、まだちょっとだけやらなくちゃいけないことがあるの」


「まってる」



最近の保育園児ってすごい…。

まるで彼女を待つ彼氏みたいな受け答えをしてくる。



「それだと千明くんが帰るの遅くなっちゃうから。また明日、先生と一緒にいっぱい遊ぼう?」


「……じゃあ、またね」


「うん、またね」



ギリギリまで手を振ってくれるところも、見ているだけで微笑ましくなる。


放課後、日直の学級日誌、隣に座った大好きな男の子は。

待ってる時間も好きだし───なんて、言っていたっけ。


千隼くん、私ね。
保育園の先生になったよ。

ちょっとだけ大変だけど、忙しくて楽しい毎日を過ごしているよ。



「お疲れ様でした~」


「お疲れ様でしたー」



園児たちのお見送りと、残っていた事務作業も無事に終わって、職員室を出る18時。


6月の終わり、まだ空は明るかった。

心地いい夏虫の音色、この時間帯は夜風がちょっとだけ肌寒くも感じる。



「よう、お疲れさん」


「うわ…!」


「…“うわ”ってなんだよ」