ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。





「3年3組のベストカップル賞、受賞おめでとう」



ずっと支えつづけてくれてありがとうな───と、上地先生から私だけに伝わってくる気持ち。


誰もが納得したように、冷やかしなどひとつもなく、あたたかな眼差しが私たちへ送られた。



───そんなときだった。



「っ……!!」



呼ばれた気がした。

私の名前を大好きなひとが、呼んでくれたような気がした。


髪を撫でるような優しさと、ふわっと香った石鹸の匂いと。



「青石…?どうした?」


「李衣…?」



勢いよく立ち上がった私は、戸惑うクラスメイトたちを気にもしないで窓際へと向かう。


千隼くん、千隼くん。

心のなかで何度も何度も呼んでいた私に、もしかすると返事を返してくれたのかもしれない。


グラウンドを彩る桜の木は、花を開いていなかったというのに。



「───……、」



そこは、満開の花びら。

色とりどりなピンク色に囲まれていた。



「……ち、…はや……くん…?」



その奥、制服を着たひとりの男子生徒。

松葉杖も車椅子も使っていない。
細くもない、やつれてもいない。