ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。





ちがう。
手をつなぐ“ことしか”できないんだ。

その他といえば、プライドも見栄もぜんぶ捨てて、こうして頭を下げることしか私にはできない。


ごめんね千隼くん。


今の私は、“手を繋ぐ=君を救うこと”だなんて思えそうにない。



「助けて…ください、お願いします先生…、おねがい…っ、喉を切開なんかしないで……千隼くんを絶対に助けて……っ」



これがずっと隠しつづけては怯えていた、真の姿なんだろう。

死というものに直面し、理解した瞬間こそ、人は“生”に執着するのだと。


患った本人だけでなく、見守る側にも襲いかかってくる恐怖。



「…尽くせる手は尽くす。俺たち医者も、浅倉くんの両親も、浅倉くん自身も、みんなまだ諦めていない。
俺だって彼を救いたい。それはどの患者に対しても…、世の中にいる医者の全員が思っていることだ」



見下ろす主治医は、初めて声を震わせた。




「確かに医者というものは見方によっては神にいちばん近い存在なのかもしれない。だが医者だって、いつ病に侵されるか分からない。
───俺たちは……どうしたって神様にはなれない」




私が望んでいる神様は、どこにもいないんだと。

もう懸けて頼るものは奇跡や希望しかないんだと。

医療のうえに奇跡や希望があるのではなく、奇跡や希望のうえに医療があるのだと。


私たちにとって唯一の神様ですらどうにもできない現実を前に。


私は、叫ぶように泣いた───。