死というものが、初めて目に見えたような気がした。
ずっと考えないようにしてきた現実が。
今はもう、どんなに逃げようとしたって、何度も何度も私の前に浮かび上がってくる。
「やめてください、そんなの…、そんなの、やめてよ、」
思い返せば、考えなければいけないときは何度もあった。
いちばん想像しやすかったのは、彼が歩道橋の階段から落ちて頭に包帯を巻いてきた日。
打ち所が悪かったら最悪死んでいたかもしれないのに。
どうしてそのとき私は今と同じ恐怖に怯えなかったんだろう。
簡単なことだ。
───それは、変わらず生きていたから。
私の目の前、千隼くんが自力で両足を地面につけて立って、私の手を握ってくれたから。
人は“実感”しなければ、痛みや恐怖を理解することができない生き物。
そして一時的な実感の場合は、数日経つと忘れてしまえるくらい不確かなもの。
「…バカじゃないの…、喉を切開だなんて、嫌だよそんなの、」
でも、今回ばかりは違う。
“本物の実感”として、私の目の前にあった。
注射なんてレベルじゃない。
細い針を腕に刺すというのなら、私だって予防接種で受けてきたから想像はできる。



