ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。





「う…っ、ぅぅ…っ、……っ」



私は、ここでしか泣けない。

家で泣くと両親が心配するし、病院でなんか絶対に泣けないから。


千隼くんとの思い出ばかりの生物準備室、人体模型の前。


いつかのコインランドリーで泣いていた、彼のお母さんの気持ちが誰よりも分かってしまう日がくるなんて。



「───青石、」



コンコンと、小さなノック音が響く。



「青石、ここに居んだろ?」



ドアの先から北條くんの声。


ひゅ、と息を飲み込む。

泣き声を聞かれてしまったかと、いまさら座りこんだ膝を抱えて、顔を埋めた。



「…ここじゃねーか、そうか」



うん、ここじゃない。
だから他を回って、ここには来ないで。

今日はカラオケに行く気分じゃないし、北條くんは泣いてる私をからかってくるところがあるから。



「とか言ってたら、見っけ」


「っ…!なん…で、」


「たまたま通りかかったらドア自体が開いてたもんで」



……やってしまった。

この場所にはドアがふたつあることを忘れていた。


廊下から繋がるドアには鍵をしっかりとかけていたのに、実験室へと抜けられるドアは開放されていたこと。


そこに現れた北條くんは座りこむ私を見つけて、入ってくるギリギリで立ち止まっていた。