今度は静けさが逆に、想像と妄想を膨らめては教室を飛び交った。
「───…喜ばないよ、」
ようやく私が言葉を発すると、クラスメイトたちの首はすぐに動いた。
みんなの刺すような視線を受け止める私は、震える唇を噛んで、ぎゅっとこぶしを握る。
「千隼くんはこんなのされたって喜ばない。ここに、また彼が戻ってきたときに変わらない居場所があればいい。…それだけで、いいんだよ」
どんな顔をしていたんだろう。
どんな表情で、どんな目で、どんな声で、私は言い切ったのだろう。
そのまま席を立ち上がってリュックを背負って、教室を出た。
『進行速度が明らかに早く進んでいるのもあるが、このままだと…いや、なんでもない』
いつものように千隼くんに会いに行って、“またね”をして。
病院を出ようとした私を引き留めた主治医である叔父は、私にしか聞こえないくらいの声音で言ってきた。
『…覚悟をしておきなさい』
なんの覚悟なのだろう。
もっともっとひとりで耐える千隼くんを見ることしかできない覚悟か。
なにもできない自分の無力さを痛感する覚悟か。
それとも、彼が私の手を本当に離すときがくる覚悟か。



