「お姉ちゃん!千隼くんは私の彼氏だから…!そんな媚び売ったって何もならないよ…!!」
「あー、やかましい。ごめんねぇ浅倉くん。いつもうるさいでしょ?」
でもそんなお姉ちゃんに、本当はすごくすごく感謝してるんだ。
彼を見ても顔色すら変えずに接してくれるところ。
病気を聞くこともしないで、いつもどおりのお姉ちゃんでいてくれるところ。
「…ふっ、ははっ、あははっ!」
そして、こんなにも楽しそうな笑顔にしてくれたこと。
「ねっ、千隼くん!私とぜんぜん似てないでしょ?」
「…いや、似てる」
まだ余韻が残る笑みを浮かべながら、お姉ちゃんと私を交互に見つめて。
とくに姉へと向けた彼の眼差しは、どこか潤んでいた。
「なんか……未来の李衣に会えた感覚です」
会えてよかった、と。
私たち姉妹の目に、屈託なく笑った千隼くんが焼き付く。
「逃げんなよ、李衣」
病院から遠ざかる車内で、お姉ちゃんはその言葉だけを私に伝えてきた。
ふたりきりになったとしても彼の病気がどういうものか聞かないで、“逃げるな”と、それだけ。
「うん」
お姉ちゃんはハンドルを握りながら、ただ静かに、いくつもの涙を頬に流していた───。



