「じゃあ、また歩けるようになる…?」
「……俺の病気は進行性だから。まれに一時停止することはあっても、治ることはないんだ」
それは1度そうなってしまったら、戻れないということ。
ひとりじゃ抱えきれないくらいの大きな現実を説明してくれる彼は、見ている私が泣きたくなるほど優しい顔をしていた。
「や、やだ…っ」
この気持ちをどう表現すればいいか分からず、めいっぱい抱きつく。
そんな私たちをいつも見守っているのは、ちょっとだけ不気味な人体模型。
「やだ、って…俺のこと?」
「ちがう…っ、病気……!」
「…うん、俺も嫌だ」
だったらそのつらさも、痛みも、私にだって与えてくれればいい。
神様はどうして彼ひとりに背負わせたの。
「でも、得した気分でもあるよ」
「得…?」
「こうやって李衣から来てくれるから」
揺らぐ視界を隠すように、大好きな匂いが広がる胸に顔を埋めた。
壁とドアを挟んだ先から聞こえてくる生徒たちの笑い声だって、足音だって。
ぜんぶ、ぜんぶ、消えちゃえばいいのに。
「…それに、いろいろ柔らかいし」
「……えっ、わっ、変なこと言わないで千隼くん…!」
「あ、やっと笑った」
笑顔より涙が増えた私とは反対に。
彼は、困ったように微笑む回数が増えた。



