「李衣、そんな泣きそうな顔しなくていいから」
「だ、だって……、また歩道橋から落ちたの…?」
目の前には、今度は左足をギプスで固定された千隼くん。
それ以外に追加されたものとしては、松葉杖がひとつ。
「あ、これか。ギプスは巻いてるだけだよ。とくに怪我とかじゃない」
「えっ…」
「青石先生には普通の杖を渡されそうになってさ。ダサいでしょそれはさすがに。
だから、こうして骨折したふりをしてる」
そうすれば松葉杖でもみんなを誤魔化せるから───と。
修学旅行が終わってすぐのことだった。
松葉杖で登校してきた浅倉 千隼を前にして驚くクラスメイトたちの騒ぎを収めたのは、やっぱり北條 拓海で。
「…もう…左足は動かないの…?」
「…動かないわけではないよ。ただ、左股関節が動かしづらいってところかな。だから安全策を取った」
「そう…なんだ、」
わざとギプスを巻いて大きな骨折に見立てれば、違和感なく学校生活を送ることができると。
そうしてまで生きている千隼くんに、いったい私は何ができるというのだろう。



