ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。





だけど、理解することはできる。

そこに生まれた愛を分かちあうこと、それは私にしかできない。



「───…もし、病気が治ったら……どうする…?」



なにを聞いているの、私は。
そんな最低な質問をしてどうするの。

バカ、馬鹿、バカ馬鹿バカ、私の大馬鹿者。



「なにも変わらない。今と同じでいいんだ。だって俺……、夢が目に見えて掴めることを知ったから」



どんな顔をしたらいいか分からなかったから、ぎゅっと、握り返した。


恨んでいいんだよ、もっと責めて、弱音を吐いて泣いて、叫んでいい。

私には聞くことくらいしかできないのだから。


なのに千隼くんは、私が好きになった男の子は、それすらをもしてくれない人だった。



「…っ!」



柔らかい感触がおでこにひとつ、伝わった。


恥ずかしくなってうつむいてしまうと、私だけが見ることのできる顔をして覗いてくる。

そんな瞬間が好きだったりする。



「───…」



どちらからともなく近づいて、合わさった。


静かな夜、波の音に乗って聞こえてくる鳴き声はカモだろうか、アオサギだろうか。


これが彼の世界なのだと。

私がずっと見たいと思っていた、浅倉 千隼が見る世界なのだと───。