「わっ、お金…!あっ、部屋にお財布置いてきちゃってて!」
「いいよ。心して飲んでくれれば」
「あっ、はいっ!心して飲みます…!ありがとうっ」
そよそよと吹き抜ける心地いい風のなか、同じ温度で私に笑いかけた千隼くん。
こうして肩を並べることにも緊張に混じった安心が生まれるようになって。
コツンと肩がぶつからない日は逆にどこか寂しいから、私からそっとぶつけにいく。
「…ふふっ、ちょっと懐かしいね」
「俺も思い出してた」
お財布、千隼くんのお財布。
入学したばかりの頃、私は彼のそんな落とし物を拾ったことがある。
目の前を歩いていたポケットからポトンって落ちるものだから、私はすぐに拾って「落としましたよーー!」って。
だけど驚くことにぜんぜん返事をしてくれなくて、だから私も追いかけて、そしたらなんと彼は走り出して。
「まさか逃げちゃうんだもん。鬼ごっこみたいになってたね」
「どこまで追いかけてくるかなって試してみたくなって。そしたらずっと追いかけてくるから、途中から怖かったよ俺」
「えっ、こっちは必死だったのに…!」
「…うそ。嬉しかった」



