無事に22時半が近づき、楓花は完全に夢のなか。

そっと起きて、そっと歩いて、まるで忍者にでもなったような気持ちで、カードキーとスマートフォンを持って部屋を出る。



「千隼くん…!」



指定された自動販売機の前。

向かってくる男の子にひそひそと声をかけると、驚いたように近寄ってきた。



「え、集合時間は22時35分って言ったはずだけど…」


「楽しみで早く来ちゃった!」


「……まだ30分にもなってないよ。何時に部屋出たの?」


「えっと、22時15分くらいかな?」



けっこう待ってんじゃん…と、肩をガックシ落とした千隼くん。



「え…、だめだった…?」


「…待たせたくなかったから22時35分って微妙な時間に呼んだんだ。俺がそれより前に来て待つつもりだったのに」


「あっ、そうだったんだ…!ごめんね…?」



薄手のパーカーに七分丈のハーフパンツ、腕にはしっかりと購入したばかりのブレスレットが付けられていた。

初めて目にする姿はドキッと、わかっていたけど跳ねてしまう。



「…李衣、それで寝てるの」


「え、これ…?うんっ。この日のために新しく買ったの!」