片付けなんてとっくに終わってる。
俺が渡したコーンで完了のはずだ。
真面目に備品の数量チェックなんかしてるなんて、逆に誤魔化したいものでもあるのか。
おまえ、そんな性格じゃないでしょ北條。
終わったなら即帰宅するような、そもそも後片付けをちゃんと行ってること自体ありえない。
「李衣のこと、好きなんだろ」
少しだけ空気を変えて言ってみると、ようやく振り返ってくれた。
だとしても目を逸らしてくるから、どこか俺らしくない苛立ちさえ生まれてくる。
こいつが李衣の腕を掴んだとき、俺は悔しかった。
すごく悔しかったんだ。
情けなく転んで、周りに笑われて、そんな先で北條から李衣を渡されて。
「俺、小学生んとき団地で暮らしてたんだけどさ」
「は…?」
「俺が住んでた向かい側に、ひとりで暮らしてる中年の女性がいたんだ。いつもお菓子くれたり、アイスくれたりして」
なんの話だ。
俺の質問には答えないまま、構うことなく続けてくる。
けれどそのなかに質問に対する答えがあるんじゃないかと思ってしまって、聞くしかなかった。
「父親とふたりで暮らしてた俺にとって、なんつーかもう母親だよな。母親みたいだった」



