ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。





私はそっと、落ちたスマートフォンを拾った。


……震える。

パスコードを解除するだけなのに、何度も失敗するくらいに震えてしまう。



『……青石さんはさ、…もし本当に…俺の身体が動かなくなっても───……、』


『いずれ俺なんか自分の身体すら───』



何度も何度も、彼は言っていた……?


どうしていま思い出すの。

言ってくれたときには気にも留めなかったのに、どうして近くに居られなくなってから気づくの…私は。



『じゃあもし俺に……足が無くなって、手が無くなったとしても…そう言える?』



ひとつ、ひとつ。

本当に少しずつ、欠片を落としていた。


それを私が拾って組み合わせることができていたのなら、彼の抱えたものがほんのわずかでも見えていたんじゃないか。



『寝たきりになった俺に、同じように言える?』



今になって重い重い現実として私に降りかかってくる。

その瞬間の彼が抱えた不安は、こんなものじゃなかったはずだ。


ううん、ちがう。


その瞬間だけじゃない。
ずっと、常に、今も。

千隼くんは目に見えない恐怖と、たったひとりで戦っているのかもしれない。