ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。





「ちょっと李衣ー、テレビばっか見てないでお皿と箸並べてってば」


「……っ、」


「李衣?」



目は微かに開いているから起きているはずなのに、明らかに細すぎる手と足はダランと脱力したように転がっていて。

口も半開き、どこから呼吸をしているんだろうと思っていれば、喉に取り付けられた人工呼吸器。


それでもこの命は、生きているんだと。



《だんだん全身の筋肉が動かなくなっていく姿を見て…親である私が変わってあげられたらと、何度も思いました》


《娘さんは走ることが大好きだったみたいですね》


《はい。この子はきっと今も走っているんです。笑顔で、走っているんです。なのでせめて手を繋いでいてあげたいんです》



表情の変化すら分からない娘の髪を撫でてから、小さな手を握る母親。

そんな慈しみに溢れた動作を見ているだけで、どこか泣きそうになった。


切なくて、優しい、かけがえのない宝物のような時間。



《こうして繋いでいると、微かに握り返してくれる感覚があるから。
思い込みかもしれないけれど……“ママだいすき”って言ってくれているような気がするんです》