「それはない」
───と、私の涙ごとバッサリ切り捨てたのは、さっきまで大口を開けて笑っていたはずの北條 拓海。
「あいつが葛西を好き?ならなんで俺に勧めてきたんだよ、おかしいだろ」
「…それは…、たぶん私を騙すために、」
「本当に葛西を狙ってたんなら、余計それこそ青石をうまく利用できたはずだ。
たとえばお前に葛西と近づけるように頼むとかな」
そんなこと1度もされたことなかった。
そもそも2人のとき、葛西さんの名前すら出たことがない。
なんの前触れもなく浅倉くんの口から葛西さんの名前が出たのは、今日が初めてだった。
「なのにあいつは青石の前で、わざわざ俺に葛西を推してきたんだぜ?言ってる意味わかるか?なあ小学生」
「高校生だよっ」
こんなときまでからかってくる。
私がいつもどおり歯向かうと、北條くんはホッとしたように笑って、それから困ったように息を吐く。
「浅倉は俺と似たとこあるからさ、わかるんだよ。あいつは自己犠牲型」
「自己…犠牲…?」
「誰だって周りに隠したいことや知られたくないことはあるだろ?
それがいざバレそうになったとき、逆に怖くなって自分を使って嘘を固めるのが自己犠牲だと俺は思ってる」



