『実は先生の姪っ子が浅倉くんと同じ高校に通っているんだ』
すると埃だらけの部屋の窓を開けて換気をするように、まったく関係ない話をしてきた。
『浅倉くんと同じ高校1年生で“青石 李衣”っていう子なんだけれど、知っていたりするかい?』
『…知らないです』
『…そっか、クラスが違うかな』
俺は嘘をついた。
どうして嘘を言ったのか、自分でも分からなかった。
この病気がそのクラスメイトに知られることが怖い───もしそんな理由だとしたなら。
なんて俺は自意識過剰で、勘違いな人間なんだろう。
『最近の高校生は大人っぽくてびっくりしたよ。先生の姪っ子なんか注射に怖がるくらいでね、今年は予防接種を受けられるといいんだが…』
無理して会話を広げていることがバレバレだ。
得意ではないくせに続けてくるのは、それほど俺の目の前に広がった絶望をせめてもと和らげようとしてくれているからか。
『…どんな子なんですか、』
『え?』
『その…姪っ子さん』
何事にも一生懸命。
俺が見たクラスメイトは、そんなイメージだった。
いつも笑顔を絶やさなくて、周りから声もかけられて、本当に元気な女の子って感じ。



