彼女の質問にへにゃ、と気の抜けた笑顔を返した。

 

「名前はないけど、コードネームならあるの」



 視界の中で、彼女——波瑠がぱっちりした目を開いてこっちを見てる。  

 また、私の視界の中でふわり、と氷空色の髪が風になびいて、揺れる。

 腰のあたりまである髪が、さらりと流れる。

 

「氷空姫。私は、——氷空姫っていうの」



 風が流れた。

 空気が揺れて、光が揺らめく。

 その中で、私は続けた。



「また、会えたらよろしくね? ——波瑠」

「............」

「それで、そろそろおうちにつくのかな?」

「............あ、あっ。はい。あ、つきました」



 波瑠が、ある家の前で、私に頭を下げる。

 私は、波瑠を見つめて首を振った。



「お礼しないで? 氷空姫は、いつだって————誰かを救う存在だから」



 彼女が家の中に入ったのを見届け、その場を後にする。

 強く地面をけり、わずかな明かりの下走り出す。