あっという間に私の番が来て、慌てて立ち上がる。

 黒板を見ると、先生が今までに出した問題が並んでいた。

 私のは、......私のは..................。

 私に出された問題を目で追いかける。

 ............あっ、あった。

 『難波潟 短かき蘆の 節の間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや』

 その一文を見て、息が詰まる。

 ——会いたい。

 でも、その願いはもうかなわないから。

 かなえられないから。

 もし、かなえられたとしても............私はそれを、拒否すると思う。

 

「難波潟の入り江に茂っている芦の、短い節と節の間のような短い時間でも会いたいのに、
 ..................それも叶わず、この世を生きていけと、そういうのでしょうか」



 そういうと、先生は「当たってるぞ」といった。

 また問題が出されて、ほかのまだあてられてない子が答える。

 その間、私は..................物思いにふけっていた。

 “あの人”との記憶。

 来夢の顔を見たときに感じた、知っているという感覚。

 それはやがて、一本の線のように、つながった。

 私のそのもの思いは、授業の最後まで続いた。

        ◆

 先生の資料室の整理を手伝って教室に戻る。

 みんな、まだ残ってるかな............。

 みんなの笑顔を思い出して、ちっちゃく笑った。

 って、一人で笑ってたらおかしいかな?