奇打。

 口では心空と呼んでいるけど、それは陽詩(ひなた)がなついているからだ。

 名字で呼んだら、ガチで......陽詩が怒る。

 少しの間奇打を見つめた後。

 教師はすっ、と視線をあいつからそらした。

 ............っは?

 やばい、こうなると......

 あいつがどうせ当たると思っていたから、油断していた。

 教師の視線がぐるりと教室内を()(めぐ)る。

 そして、俺のほうを見て教師の口角がにやりと上がった。

 ......ぁ......



「じゃあー、この問題を悲夢 おおぞらくん」



 ......うっわ、最悪。

 つーかおおぞらってなんだよ、俺の名前ツバサだぞ。

 悪態(あくたい)をつきながら、俺は何とか口を開いた。



「......なんで俺なんすか」

「おしゃべりしてたからよ」



 教師が即答する。

 ......おしゃべり.........?

 そんなんしてねーよ。

 でも、この教師はこういう姑息(こそく)なことするから............

 いつものこと。

 俺は早々とこの教師の手を逃れることをあきらめた。

 くそ、なんで......。

 ていうかみんなこういう時は助けてくんねーんだよな。

 この教師の、うざさとメンドサがわかってるから。

 席から立ち上がり、そのまま黒板に書かれた問題を見る。

 なに、この式......。

 データの分散?

 そんなんやってねーし、教科書にも載ってないっつーの...。

 

「は、844?」

「全然違うわよ! バツとして、放課後書類室の書類整理しなさい‼」



 クソっ......。


 こうなると、さーも書類整理することになる。

 とにかく書類整理なんてめんどいし、――放課後?

 予定あるのに?