この星に生まれた、何よりも誰よりも。


 その時ふと目に入ったのは、淡い空色の髪の毛。

 完璧な空色ではなくて、白に近い空色。

 淡く、透き通るような空の色。

 私の髪の毛の色。
 
 私の目の色は、髪の毛と同じ淡い空色。

 学校では、外に出るときはいつも変装してるんだ。

 黒色のウィッグと、黒色のカラコン。

 ウィッグは、肩までかかるくらいの黒髪で、柔らかい髪の毛の毛先が緩くカールしている。

 それらの変装道具は今、引き出しの中に入っている。

 小さな明かりが置いてあるのは、ベッドわきの小さめな棚。

 棚には引き出しがついていて、その中に変装道具が入っている。

 ......ったりしている。

 一回。

 あの時、あの時だけは、ウィッグとカラコンを外して外に出られる。

 まあ、その話はあとで。

 私は手を伸ばし、パチリと小さな明かりを消した。

 部屋が暗くなる。

 私は小さな明かりの消えた部屋で、ベッドの中に入りふかふかの暖かい布団にくるまりながら、淡い空色のさらりと流れる髪の毛を手に絡ませた。

 明日の、空来彩高校の私の姿を思い描きながら。

            
       ◇ ◆ ◇

 誰かがにやにやと嫌そうに笑っている。

 ほくそえんでいる男はあるものを“あの人”に向けていた。

 時が止まっているようだった。

 ゆっくりと動いているようだった。

 黒色の長袖のパーカー。

 真っ赤な真紅のミニスカート。

 その姿で、その格好で、私は目の前で起こっていることを突っ立ってみている。

 足が動かない。

 動くけど、動かなかった。

 “あの人”は、こちらを見る。
 
 私のほうを見る。
 
 私を見る。

 その目で、その口で、その動作で、

 何かを伝えようとしている。

 ..................誰に?

 ぼんやりとその疑問が飛んでくる。

 そんなのもうわかっている。

 私だ。

 私に、何かを伝えようとしている。