氷空(そら)?」

「はうわああああっ⁉」



 私は聞こえてきた自分の名前に、肩をびくつかせて飛び上がる。

 うわあああああ!

 恐る恐る隣を見上げると。



「聞いてたか?」

「......ごめんなさい」



 謝罪の言葉を口にする。

 聞いてませんでした。

 今日は、退院の日。

 後から聞かされてたけど、私は3週間寝ていたらしい。そして三週間、意識がなかったと。

 びっくりした。

 そんなにあそこにいた自覚はなかったから。

 ......そういえば、“月殺(げっさつ)”と“絶死願(ぜつしがん)”の人たちは、その組を解散して。

 そして今、警察にお世話になってるんだとか。

 心を入れ替えてくれるといいな......。

 そしてまた、生きるということの大切さを思い出せますように。

 そう願って、手を握りしめたら、

 『優しすぎる。やろうと思えば、地獄を味合わせてやれるぞ?』

 そんな言葉が帰って来て。

 あの時の(ひかり)の目、笑ってなかった......。

 ぶるっと体を震わせる。

 必死に止めておいて、よかった......。

 いや、許してるわけではないよ?

 私、そんなにできた人間じゃないし。

 ただそれでも、誰かを想う心が取り戻せたらいいのにな、って。

 

「......氷空」

「はい?」



 声が聞こえて、星を振り向く——と。

 っ......⁉

 耳元に吐息がかかる。

 

「......この星に生まれた誰よりも、何よりも、愛してる」

「......っ!!」



 ......こんなに急なのは、やめてほしい。

 心拍数が思いっきり上がって、顔が熱くなる。

 すき。

 その一言を伝えるのって、すっごく難しい......。
 ......ということを私は思い知らされていた。


 『この星に生まれた誰よりも何よりも、君のことが好き。』


 そう言いたいけど、私は今、これが精いっぱい。

 

「星、かっこいいねっ......」



 そう笑えば、星は耳元を赤くした。

 ちょっと、私には好き、と伝えるのはハードルが高すぎる。

 でもやっぱり、私の物語はまだ終わらないんだよ。

 私は、ハッピーエンドの物語が好きだから。

 今すぐ、好き、とは言えないけれど。


 ............でも、だけど、いつか。

 キミの隣で、キミの笑顔を見ながら。

 キミが好きだって、言いに行くから。

 この星に生まれた誰よりも何よりも、君のことが好き。

 



               ◆「この星に生まれた、何よりも誰よりも。」end◆