「......ひか、りっ......」



 名前を呼ぶと、(ひかり)が瞳を揺らした。

 私は、そんなことを気にせずに、また足を踏み出す。

 そして、座ってる星へ飛びついた。

 星、あったかい......。

 耳をかすめる吐息。

 体温があって、生きてるんだなあ、と思う。

 星も、約束守ってくれてたんだよねっ......。

 

「そ、ら......?」

「う、んっ......」

「本当に、氷空か......?」

「ほんと、だよっ......氷空、だよ......」



「夢、じゃないよな......?」



 星の声が震えていて、大きくうなずく。



「夢、じゃないよ......。ここに、いるよ......っ」



 夢なんかじゃないよ。ここにいるよ。

 そう伝えるように、もう一度名前を呼んだ。



「......星......ひさ、しぶりっ......」



 星の顔は見えなかった。

 だってそれは、私が星に抱き着いているから。

 久しぶり。
 
 私、あの時の言葉、聞こえてたんだよ。

 ちゃんと、星の言葉、聞こえてたんだよ。

 『......そらっ............』

 展望台に落ちた時の言葉だって、聞こえてた。

 反応はできずに、意識を失っちゃったけれど。

 ちゃんと、聞こえてたんだよ。

 優しく、微笑むように雨が降る。

 しとしと、しとしと。

 降り続けている雨......天気雨なのかな。

 そう思うくらいに、空がきれいだった。

 淡く淡く、月が光る。

 満天の(ほし)が、ここにいるよと教えるように、瞬く。

 綺麗な、群青色の濃い空。

 お兄ちゃんと一緒に見た夜の空は、もっと水を絡めたみたいに淡い色をしていた。

 今は、深い深い、群青。

 真っ黒ではなくて、それがなぜか美しい。

 こんなに綺麗で晴れ渡っている空なのに、なぜか雨が降っている。

 しとしと、優しく、雨が降っている。

 やっぱり、天気雨みたいだ。

 誰かが泣いているように、雨がやさしく降る。

 天気雨。

 誰かの涙が、ここに、優しく降り注ぐ。