一歩、足を踏み出す。

 歩ける。それが分かった瞬間、私は走り出していた。

 病室の扉を開けて、通路を駆け抜ける。

 すぐそこに、来夢(らいむ)と、琉宇(るう)と、陽詩(ひなた)と、時円(じん)と、大空(つばさ)と、翼皐(つばさ)と、舞那(まな)と、煌貴(こうき)と、りいと。

 彼以外の皆がそろっていた。

 私は反射的に、声をかける。



「......っ、ねぇ、神楽(かぐら)くんってどこにいるの⁉」



 苗字を呼んだのなんて、久しぶりかも。
 
 そんなことを思う。

 だって、彼の名前は、彼に先に言いたかったから。

 

「ん、と、学校の方向行ったみたいだぜ」



 来夢がそう告げた。

 「見てんのかよ、お前」「いや? でもわかる」「なんだよそれ」

 そんな声を聞きながら、「ありがとうっ」と言って、また駆けだした。



「えっ......氷空⁉」

「え"っ⁉」



 驚いて声を上げた皆。

 でも振り向かず、私は病院を飛び出した。

 学校......っ。

 学校へと、ひたすらに走る。

 雨がやさしくしみこむ。

 雨に打たれて、水滴が、氷空色のパーカーと真っ白なスカートにしみる。

 あの時と、同じ状況だね。

 お兄ちゃんにあって、この世界に戻ってくるときと、同じ状況だ。

 ......それもそっか。

 だって私は、彼に会うために戻ってきたんだかっら。


 彼に会いたかった。
 彼の笑顔が見たかった。


 学校へと走る。

 大きな正門。

 最初に来たときは、どんだけ大きいのか、と目を疑った。

 だってそうでしょ? これは大きすぎるよ。なにこれ。
 
 ......そして、キミと同じ班になったんだ。

 学校の正門を通る。

 けがが治ってないのか、ずきずきと傷が痛む。

 それでも。

 走る。

 彼に、会いに行くために。

 ありがとう、っていうために。

 君の笑顔を、見るために。

 勝手に学校の中に入っちゃったけど、......それはしょうがない。

 氷雨(ひさめ)時雨(しぐれ)なら、きっと許してくれるだろう。

 そして多分、怒られちゃうけど。

 怒ったら、あの二人は怖いからな~。


 一階、二階、三階、四階、


 学校中を探す。校内を走る。

 空来彩高校は、五階建てに、その上が屋上だ。

 
 五階、


 誰もいない。