「氷空はさあ、いっつも周りで誰かいなくなるんだって、言ったよな。いつも自分のせいで、誰かがいなくなるんだって」



 そう、言ったかな。言ったっけ?

 でも、そう思ってたのは本当だった。

 ばれちゃってたのかな?
 いつの間に。

 分かんないなあ、本当に。

 君といると、わかんないことばっかりだ。

 でも、それが心地よい。

 恋は、世界がキラキラして見えるっていうけれど。
 
 でも、私はまだ、キミの姿を見れないね。

 だって、瞼が持ち上がらない。

 .....ふふ、君といる二人きりの時間がすっごく心地いいかも、なんて。

 初めて会ったときは思わなかった。



「............でも、それは氷空のせいじゃない。
 氷空の周りで、いつも誰かがいなくなるというのなら、俺は———......」



 言葉を止めてしまった彼。

 ......あれ、最後まで言ってくれないんだ?

 ちょっとふざけてみるけど。

 ......不器用だなあ。

 でもすっごく、優しい。



「明日も来るから、またな」



 彼はそう言って、部屋を出て言ってしまった。

 一人きりの部屋で、ぽつん。

 なんだかそれがすごく寂しくて、私は、ちょっと起きてみようかなと思った。



「......ふ、......」



 一人きりの、病室。

 目をゆっくりと開ける。



「......はー、......は、ぁ............」



 呼吸をする。

 目を開けると、月の光が差し込んできた。

 ......まぶしい。

 いつもはこんなこと思わないのに、そう思った。

 寝てたからかな。

 アイボリーのカーテンが揺れている。

 指先しか動かせないくらいに、体がこわばっていた。

 きょろきょろと、頭を動かして周りを見る。

 白い花瓶が目に入った。

 ......ほんと、だね。

 青い花ばっかりだ。

 シオン、ブルーローズ。

 アネモネに、白とピンクのポーチュラカ。

 いや、数的には多くはないんだけどね、大きさがすごい。

 動くかな。

 ぼんやりと、そんなことを考える。

 動けたら、会いに行けるかな。

 ......逢いたいな。

 ぐ、っと力を籠める。

 手が、動いた。

 上半身をぐきぐき、いわせながら起こして、ベッドに手をつく。

 じゃあ足はどうかと、足を上げて下げてあげて下げて。

 ベッドから、出られるかな。
 
 ......さすがに、難しいかな。難しいかもしれない。

 そろそろと、足をベッドから出す。

 そして、下半身を動かして、私は腰かけている状態になった。

 ......大丈夫、大丈夫......。

 早く、彼に会いたいなっ......。

 会っても、いいよね。

 そういうことにしちゃおう。

 腰を上げて、立つ。

 少しよろめいたけれど、足を踏ん張る。

 大丈夫、動けるよ。会いに行ける。