「......おかしいだろ、」



 小さく吐き捨てる。

 おかしいだろ、だって、こんな結末は。

 ......こんな結末が、あってたまるか。

 こんな結末は、あまりにも、理不尽じゃないか。不平等じゃないか。

 おかしいじゃないか。

 氷空は、何も悪いことをしていないのに、おかしいだろ。

 なんで、氷空はこんな目に合わなくちゃいけない?



 しとしと、しとしと、と雨が降る。

 優しく、なでるように、静かに雨が降る。

 顔を上げる。目を見開いた。

 ———流星。

 小さな、青白い光のようで、それでいて、綺麗なピンク色のような、不思議な色をしていた。

 たとえるならば、その色はきっと、白昼夢(そら)

 氷空色をしている、流星。

 一瞬だけ、雨が喜ぶように強くなった。

 まるで、誰かを待っているような。

 流星も、光の尾を引いて、光をちりばめながら流れる。

 喜んでいるように。

 その光は、すうっと建物の陰に見えなくなってしまった。

 目を見開く。分かる。感じる。
 
 いる。

 足音がする。

 かすかな、息遣いが聞こえてくる。

 たんたんたん、と階段を駆け上がる音がする。

 誰かが、屋上の扉に手をかける。

 カチャリ、と扉が開く。

 ふりかえる。

 さらりとなびく氷空色の髪。きらきらと光る、氷空色の曇りのない瞳。

 陶器のように白い肌。触れたら、壊れてしまいそうなほど細い手足。

 氷空色の大きめなパーカーを着ている。

 真っ白な、スカートが揺れる。

 さっきまで寝ていた少女は、俺を見る。

 

「———氷空?」




 やっぱり、まだ物語は終われないみたいだ。

 あんな結末は信じない。

 理不尽で、不平等で、あまりにもおかしすぎる結末は、信じない。

 氷空色の瞳が揺らめく。

 氷空色の髪がなびく。
 
 しとしと、しとしとと優しく水滴がしみいる。


 この世界が色づく瞬間を、

 光がきらりと瞬くこの瞬間を、

 氷空色がいっぱいに広がる瞬間を、

 氷空がまた、笑ったこの瞬間を。

 
 ————きっと、永遠に忘れない。