この星に生まれた、何よりも誰よりも。


      

 階段を上る。

 すると、屋上の扉が見えてきた。

 学校の扉。

 あの後、来夢と別れて、気づけば学校に来ていた。

 そしてそのまま屋上へ。

 屋上は、空が一番きれいに見える。

 だから、なのだろうか。

 俺は、ゆっくりと目を閉じた。

 そして物思いにふける。


 『新しい席ができたら、そっちに移るので今はここにいてもいいですか......っ?』

 氷空と、初めて会った日。
 こっちを気遣うようにそう言ってくる氷空が、最初は、憎くて、嫌いで、............分からなくて、不思議で。


 『おはよー......って、え⁉ これどういうことっ? なんで席変わってるの⁉』

 とてつもなく驚いたように、そう投げやりに大きく言う氷空。
 この時も、俺の心配をしてくれていた。


 『もう、ダメだよ? 気を抜いたら。
  ——この世界では、0.1秒が命取りになるから』

 初めて、キミの仮面が取れたようだった。初めて、キミの心に近づけた気がしたんだ。
 軽やかに舞い、敵を倒していく氷空を、とても美しいと思った。


 『............じゃあ、ひかり.....』

 少しだけ赤い顔で、緊張したように、恥ずかしそうにそう呼んでくれた氷空。
 氷空に呼ばれるだけで、この名前を好きになるなんて、思ってもみなかったんだ。


 『ほ、ほんとに......?』

 信じられなさそうに、そう尋ねてきた氷空。
 でもその顔には、うれしさがあって、こっちまでうれしくなった。


 『なんにもないよー。もー、星どうしたの?』

 そうやって笑って、自分の心をごまかして。やっぱり君は、自分を隠してしまう。
 仮面がまたつけられて、心に触れるための扉は、もっともっと頑丈になって。


 『............もう、なんできちゃうかなぁ......』

 ぐちゃぐちゃになった表情は、泣きそうで、うれしそうで、期待しているようで、必死に自分を抑えているようにも見えた。
 でもきっと、初めてちゃんと、キミの本心を聞いた気がした。


 『いうよ。時雨と氷雨は、私の秘密、もう知ってるでしょ? 
 何回も、言いたくないの。何回も、聞いてほしくないの』

 決意したように、キミはそう言って、

 『聞いてくれる?』

 俺たちのほうを、見ないで少しうつむきながらそう言ったよな。


 『...目の下、クマがついてるよ......?』

 誰にも気づかれなかったのに、そう言ってきた氷空には、本当に驚かされた。
 鈍いのか鋭いのか、わかんなくなったような気もしたな。


 『......死なないでね。“約束”......だよ............約束する。いなくならないって』

 こっそりと、約束をして。
 どこか、懇願するように言ってきたから、俺は。
 君の荷物を、少しだけでもいいから、背負わせてほしいと思った。


 『..................星。私、みんなと笑いあえるように、生きるから、約束は、守るから』

 キミの笑顔はいつでも、どこか壊れてしまいそうで。

 『その時は、全力で止めてね?』

 そんな風に、言ってくるから。だから俺は、自然とうなずいてしまう。


 『......なんで? どうして、私を助けてくれるの......?』

 不思議そうに、聞いてきたんだよ。
 そんなのは決まってるんだよ。最初から、きっと。

 そんな君に、俺は言っていた。

 ———好きだから、と。