この星に生まれた、何よりも誰よりも。

        ◆

 雨が降っていた。

 しとしと、しとしと。

 窓の外から雨音が聞こえてくる。

 俺は、昨日持ってきた花が入っているシンプルな花瓶の中の水を入れ替えた。

 今日は休日だ。

 あいつらを撒いて一人先に病院に来た。

 氷空と、一緒にいたかったんだ。二人だけで。

 するり、ときれいな色をした髪に指を絡める。

 きれいな、氷空の色。

 そのまま俺は、小さく、
 本当に、少しだけ小さく。



「———...すき...、だよ......」



 そう言って、氷空色の髪に、そっと口づけた。

 そして、顔にかかった髪を優しくよける。

 
 氷空は、意識のないまま、静かに泣いていた。

      
 俺は、しばらくそうしていた。

 やがて、雨音が震え初めて。

 そのことにようやく気付いた俺は、がたりと席を立った。



「———よう。星、何やってんの」

「......来夢」

「もー、バカにしないでほしいわ。ザコじゃないんやで、これでも」



 あほでもないがな、とそうひょうひょうと言ってのける来夢は、笑っていた。



「時間、作ってやったんやでー。感謝してくれれば幸いなんだけど」

「......やっぱり、あいつらをここに来させないようにしたんだろ」



 あたり。にひひっとイジワルそうに笑った来夢。

 来夢は一番バカそうに見えて、こういう気づかいができるやつだからな。

 そんなことを頭の中で考える。

 

「氷空、空、天、青空、大空、宇宙」

「.........おい、何をやっている」



 あろうことか、ソラという読み方の漢字をつらつらを破った紙に書いてきた来夢。

 

「......星、はさあ。どれが一番、似合ってると思う? どれが一番、ソラみたいだと、思う?」



 ソラは———......。

 ソラは。



「氷空、だと思うよ。俺は」



 そうして俺は、書かれているうちの一つに、指を乗せた。