「......っ!」



 唇をかみしめる。

 お兄ちゃんに背を向ける。

 お兄ちゃんが、悲しそうに笑ったのが視界の端に映った。

 足を踏み出す。



「戻るには、光の中に飛び込まなきゃダメなんだ。光のあるところは、俺たちも知らない」

『氷空って、言うのは。氷空っていう、その意味は...“___”———......』


 私は———......
また、キミの笑顔に逢いたい。


 走り出す。

 もう振り向かない。

 風が吹いてきて、私の顔を隠した。


 走り出す。

 光を探して。

 走り出す。

 願いを探して。

 走り出す。

 思いを探して。

 走り出す。

 もう一度、キミの笑顔に会うために。

 走り出す。

 だから私は、走り出す。


 
「駆けろ! 走れっ!」



 うん、もちろん。

 いくよ。


「駆けろ! 自分の望むほうへ走ってけ!」



 分かってる。

 私、大丈夫だよ。

 走ってるよ。

 キミにもう一度会うために、走ってるよ。



「駆けろ! 澄み渡れっ!」



 走る。走る。駆ける。

 足を動かす。

 お兄ちゃん、美弥、疾風。

 大丈夫だよ。私、大丈夫だよ。

 いつか、私、ここに戻ってくるから。

 きっと、その時は来るんだ。私にも、みんなにも。

 でも、今は、まだ。

 今はまだ、お兄ちゃんの言った、光がこぼれだすその景色を、見ることはできないから。

 走る。

 髪がなびく。

 いつか、会いに行くから。

 いつか、戻ってきたら、こんなことあったんだよって、教えてあげる。

 その時は、私の話だけじゃなくって、お兄ちゃんの話と、美弥の話と、疾風の話も聞かせてね。

 いつか、私も戻ってくるから。
 私も、そこに逝くから。

 だから、その時は。
 一緒に思い出話でもしよう。


 走る。

 この瞬間、私は、泣いていた。

 

「———氷空。広がれ。それは、無限の可能性がある」



 声が聞こえた。

 

「無限の可能性が、誰かを想える心が、キミにはある」



 ———駆けろ。

 
 その言葉を背に聞きながら、私はがむしゃらに走っていた。

 そして、光にたどり着く。

 輝いている、光。

 その光の中に飛び込む。

 突き抜ける。

 まぶしくなってしまうほどの光に包まれながら、私は走っていた。