どこだろう、と思った。

 ここはどこだろう。

 一面の草原に、私は立っていた。

 霞が目の前を覆っている。

 目の前なんか、見えることなんかなくて。

 ここはどこ?

 私、ついさっきまで展望台にいたはずなのに......?

 霞で、周りを見ることさえままならない。

 本当に、どこなんだろう......。

 目を凝らして周りを見ようと試みる。が、それは失敗に終わった。

 霞を通して、うっすらと草原の色が浮かんで見える。

 なのに、それ以外は何も見えなかった。

 見ようとすると、霞がことごとく邪魔をしてくるように思えた。

 このままでは何もできず、足を静かに踏み出す。

 思い立ったが吉日。思い立ったら即行動。

 そんな言葉があるのは、こういうときのためじゃないのか、と目を凝らして前を見据える。

 ゆっくり、ゆっくり。

 何があるかわからないから、少しずつ足を前に進めていく。


 ふわり、と。
 微かな草花のにおいがした。


 霞が、驚くほど自然に引いていくのを見つめる。

 霞が晴れた。

 視界が開ける。

 目の前に広がった、鮮やかな色をした草原。

 大きく広がるのは、きれいな雲一つない空。

 透き通るようなほど繊細な空の色と、静かに揺らす草原の色。

 優しく、なでるように風が通り抜けていく。

 ............ここ、は。

 ぼうっとその光景を見つめる。

 そうしていると、ふるっと体が震えた。

 ひんやりしてて、少し、寒い......。

 なにか、あたたかい......コートとか、ないかな。

 そう思ったと同時に、あたたかくなる。

 自分の格好を見てみると、白色のコートを着ていた。

 寒くなくなって、鳥肌も立たなくなっていた。

 優しく風が泳ぐ空と草原の中を、歩いていく。



「............あ、」



 そう、小さく声を漏らす。

 風が吹く。

 さわやかな、草花のにおいがする。

 
 それにつられるように。
 ふと、響いてきたかすかな音を。
 私は耳のうちに残す。



『......氷空(そら)
 


 かすかな声で。
 零してしまいそうな、小さな声を。
 その、かすかな、零れ落ちてしまいそうな声は。


 私の、名前を呼んだ。

 氷空、と。そう、確かに告げた。

 聞き間違えない。

 だって、この声は......。



美弥(みや)......」